2016 グランフォンド「ラ・マーモット172㎞」ご参加 Y様 参戦記


フランス最大級のオープン参加型グランフォンド「ラ・マーモット172㎞」参加ツアー
にご参加されたY様より、リアリティー溢れる参戦記をお寄せいただきましたので、ご紹介します!



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  昨年の夏、このイベントに参加された弦巻さんのレポートが目に入り、
かねてからの夢だった「伝説の峠『アルプデュエズ』を走る」を実現する
術があることを知りました。

 しかし、私はこの時点で海外渡航経験は25年前の新婚旅行1度っきり。
仏語はおろか英語もままならない自分が、果たしてフランスになんて行け
るんだろうか?仕事は休めるのか?....etc。次々にわいてくる負の要因に、
一旦お蔵入り。

 その後2ヶ月間、考え抜いた結果「ここで決意しなければ、次はない」
と判断し、女房に許しを得た上で、久保さんに参加の意思を伝えました。

 自己紹介。ロードを始めて10年ぐらいの51歳サラリーマン。年2回ほど
町興し系ロングライド・イベントを目標に、週末100kmぐらいを走る程度の
典型的なサンデー・ライダー。

 一方、この "La Marmotte" と言うイベント。
 走行距離:180km、獲得標高:5,000m。ブール・ドワザンを起点とし
時計回りに、グランドン峠 ~ テレグラフ峠~ ガリビエ峠 をやっつけて、
再びこの街からアルプデュエズめがけて山頂ゴールすると言った、
ツール・ド・フランスのアルプス決戦山岳ステージを1日に凝縮した、
とんでもないコース・プロファイル。

 だから、距離はともかく、1日で標高2,000m獲得すれば「今日は良く
頑張りました」って思える私が、このコースを完走できるのか?


 時は流れ....無事、フランス到着!
 リヨンまで迎えに来てくれた久保さんのクルマで、一路アルプスへ。
その途中、ザッと夕立。その後、渓谷から立ち上がった双子のアルカン
シェルが、私達を歓迎してくれているように思えました。

 参加人数は全部で10,000人ぐらいだったのかな? その中、日本からの
出場はたった4名。このイベントのスペシャリスト"ドクター"齋藤さん。
フランス駐在経験があり、現在千葉松戸でショップ「シルク・マーモット」
を経営されている馬場さん。御存知バイクラ副編集長の山口さん。そして
特に肩書きのない、わたし矢野。

 そこに、12年間エリート選手として走り、現在カテゴリ2のチーム監督
も務めているクリスチャン。21歳でフランスへ渡り、レース活動の経験を
元に、最もフランス自転車界で顔のキク日本人と言っても過言じゃない
久保さん。この2名がスタッフとなり、合計6名で急造 team JAPAN の
編成となりました。

左)スタッフ 久保、
右)フランスエリートチーム監督のクリスチャン(自身も過去にラ・マーモットで2位経験者)

 少し脱線。
 前々日エントリーの際、日本から参加の我々がアルプデュエズの観光
局(?)の目にとまり、レース前日にリフトで標高3,300mまで案内してくれる
と言うサプライズがありました。そこから見たアルプスの絶景には、言葉
が発せず、時間の流れと言う概念が吹っ飛んでしまうほど圧巻。そこで、
クリスに「あれがガリビエ峠だ」って指差されたのは、ほぼ目線の頂。
えぇ~っ、明日はあんなところまで自転車で登るの~!? 少し気が
滅入ったのも正直なところ。
#監督、夢見心地の私を現実に引き戻してくれて、ありがと(怒)。

 前日の夕食後、6人でミーティング。
 内容は、各セクションに対するアドバイスや補給地点の詳細な打合せ。
そこで、これまでコンダクターだったクリスの目が、監督のそれに
変わった瞬間、みんなのスイッチもレース・モードに切り替わった模様。
#カチッ。

 レース当日、スタート地点の街ブール・ドワザン。
 アルプデュエズが洗練されたリゾート地なら、ここは私がイメージする
通りのヨーロッパの田舎町。う~ん、いい雰囲気....なのですが、日本語は
愚か、英語さえも聞こえてこない、完全な「アウェー」。こんなの、なか
なか味わえませんよ。更に、ガタイのでかいオランダ人やベルギー人の中に
埋もれちゃうと、威圧感満載。

 私は8:00前ぐらいにスタート!
 最初7kmは、ほぼ平坦基調。その後、第一難関のグランドン峠の登りに。
両スタッフのアドバイスは「ここは、鼻歌混じりで登るように」とのこと。

 一方、本日の自分の調子は?う~ん、どうも好調とは言い難い。しかし、
憧れの地で、こんなたくさんのライダーに囲まれながら「たった独り」を
楽しめるなんて、ほんと幸せな気分でした。

 脱線再び。
 日本の自転車イベントって、品評会的な側面があり、最新のフレームや
パーツで組まれた自分の愛車を自慢する場でもあります。でも、私は少し
ハズした感を望む傾向にあるので、その部分をフランスに期待していま
した。
#私の自転車は、ちと古いアメリカ製のチタンフレーム。

 しかし、期待は大きく裏切られ、ある意味日本よりも王道傾向が強い
ように感じられました。う~ん、残念。

 そんな中、オールディーズな鉄フレームのスポルティーフ集団が私を
抜いて行きました。私は思わず「おーっ、コレコレ!」っと心の中で
歓喜。そんな心の叫びが聞こえたか、その中の1人が私のバイクを見て
"Nice bike! Titanium?" っと声を掛けてくれました。私の頭の回転が鈍く、
上手く感謝の意を伝えられなかったのが悔やまれましたが、コレは嬉し
かったぁ~。

 そうこうしてる間に、グランドン峠への登坂も終焉に。峠の直前で
クリスがサンドイッチを補給してくれました。が、停車してパクついて
いる私にクリス監督は「早よ、行け!」って目で訴えてましたね。
こんなのは言葉が通じなくても感じるんですよ(鬼ぃ~)。

 グランドン峠の360°大パノラマを、心にしっかり焼き付けて、さぁ、
下ろう。ここは非計測区間なので、みんなゆっくり行くのかなぁって
思っていたのですが....なんの、なんの。流れにのって自分も!
ヒルクライム(HC)の調子は良くありませんが、ダウンヒル(DH)の調子は
いいみたい。

 次なるはテレグラフ峠。ここは次のガリビエ峠に備えて、必ず脚を残す
ようにとのことでしたが、この勾配は残していたら登れない(涙)。
なんとか登頂しましたが、ここで「本日の脚、売切れ」。

 さぁ、メインディッシュの「ガリビエ峠」が、遂に始まります。ここは
アルプデュエズと並んで、幾多の名勝負が演じられた峠です。できれば
「サラ脚」で挑戦してみたかったと言う思いは拭いきれませんが、今回は、
乾いた雑巾を搾り出すがごとく挑むと言う選択肢しか取れません。
#これから17km登りっぱなしは、ちと憂鬱。

 案の定、登れない。売切れた脚を誤魔化そうとダンシングすると、
脚の裏に激痛が。耐えるしかないかぁ。森林限界は当の昔に越えてる
こともあり、峠までつながる巡礼者一行が、遠くまで視界に入ります。
絶景は....もぅ、眺めてる余裕なんて皆無。

 峠まで残り10kmを切ったところ。どんな言い訳して止まろうかって
ことばかり考えるようになってきました。加えて、血糖値の低下も
あったか、徐々に体感温度が下がってきました。が、自分をなだめ
すかしながら、なんとかコギ続ける。

 峠まで4km。でも、もぅアカンって思った瞬間『雨』!? ヤバイよ、
こんなところで止まって雨に打たれたら、凍えるやん。止まるな!
ってことかぁ。

 峠手前で久保さんが補給に待ってくれてるハズ。ふっと見上げると
遠くに目印の「日の丸」発見。あそこまでは....でも、あそこまで
登らなアカンのかぁ(血涙)。それと、さすがに標高2,500mにもなると、
酸素の薄さを実感、手先足先がビリビリ痺れて、感覚がなくなってる
のに気づきました。

 久保さんに脚着きを目撃されるのは避けたかったので、とりあえず
見栄ダケで補給ポイントまで登ってきました。その頃には暴風雨に!

 ここで馬場さんに遭遇。休みたいのは山々でしたが、一息ついて、
馬場さんと会話を交わしてしまうと、私の心は一気にリタイヤに傾き
そうでしたので、コーラ1本を一気飲みして、残りの峠越えを決意。
#馬場さん、素っ気無くて、ゴメンなさい。

 なんとか峠をやり過ごし、ここからは圧巻の45kmDH。調子のいいDH区間
なので、楽しみたかったのですが、暴風雨のため慎重に下らざるを得ない
ハメになってしまったのが、超残念。それどころか、体感温度は確実に
5度を下回っていたと思います。寒さで身体の震えが止まらない。酸欠と
加わって手先足先の感覚は更に悪化。太腿も痙攣してきたぞぉ~。でも、
なんとか無事下山。
#アレっ?雨もやんでるし、暖かいし....山の天気は怖いですね。

 ここで少し最後の峠「アルプデュエズ豆知識」。この峠は、距離にして
13km。ツール・レジェンド達の名前と同時に、頂上から順に1~21まで
の番号がシーケンシャルに付いた看板が、コーナーごとに掲げられていて、
麓から登ると、コーナーを折り返す毎に、あたかもゴールまでのカウント
ダウンを刻むがごとく、登り手達を鼓舞してくれると言う、今の私に
とっては嬉しいような、嬉しくないような演出がなされています。

 さぁ、残すは、そのアルプデュエズへの登りのみ。登り切れば、そこが
ゴールです。しかし、憧れのアルプデュエズを目の前にして、私の身体
には、もぅ何も残っておりません。ボロボロになった徹夜明け、恋焦が
れたマドモアゼルに、無残に萎れた花束持って、求愛に行くようなもの
です。

 しかし、行くしかない。ここまできたからには、マドモアゼルに抱擁して
もらえなくても....って言うより、お宿は登り切った頂上なものですから、
ゴールしなきゃ、食事にもシャワーにもベッドにもありつけないと言うのが
現実的な理由ですがね。
#ホテルを設定した久保さんを、少し恨む。

 うっ、それにしてもキツい。早くも脚と心肺がヤバくなってきました。
しかし、沿道ではフランス美女達が「アレ!アレ!」って手を叩いて応援
してくれてます。ここで日本男子の恥をさらすワケには行かないので、
美女達の前ダケはなんとか頑張る。

 最もキツい登り始めの4km区間を越えた辺り。
 でも、もうダメ。No.9のコーナーで、美女の目を避けて(←ここポイント)
遂に脚を着いてしまいました。少し息を整え、ガードレールに寄りかかって
振り返ると、眼下には本日スタートしたブール・ドワザンの美しい街並みが。
もう何処までが現実なのか、わからなくなってきました。その上、なんか
眠くなってきた....アカン、アカン!こうしていても、ゴールは近づいて
くれません。進まなきゃ。

 しかし、一度キレた心を元に戻すのは至難の業。その後2km登っては脚を
着き、1km登っては脚を着き....もぅ勘弁してって思いながら、ハンドルに
突っ伏せて息を整えていた、その時。一人のライダーが、無言で私の肩を
叩いて抜いて行きました。その瞬間、再び闘争心(って程でもありませんが)
に火が着きました。こんなことがエネルギーに換わる!? ほんと、不思議な
経験でした。

 とは言え、現実は小説や映画みたいに甘くなく、出せるのは歩くのと大差
ない速度。で、なんとかNo.1コーナーを過ぎ、アルプデュエズの街並みが
視界に入ってきました。ふぅ~、色々あったけど、とりあえず完走の目処は
ついたかな。名物のトンネルを潜って、今更必要もないのにダンシング。
そして、ゴール!

 成績? な・い・しょ。でも、コレ完走したら泣けるかなって期待して
いたのですが、やはりいつものように「やれやれ、やっと終わったよ」って
感じでした。

 このレースで得たもの。
 今はまだ具体的な形で自分の手元には存在しません。結果としては、
目標とした9時間以内も達成できませんでしたし、得意なハズのHCで、
欧州ライダーとの差を見せ付けられました。その上、HCの途中に脚を着く
と言う「自分に負けたことを証明する行為」を、憧れのアルプデュエズで
やってしまいました。10ヶ月間これダケを目標にやってきたので、正直
自分へのガッカリ感がでかいです。

 コレでは終われない。

 最終日に空港まで送ってもらうクルマの中、クリスの「アルプデュエズ
に、さよならだね」の言葉に....敬礼はしましたが、さよならはしません
でした。

 「再び」があるのかどうかは、今はまだわかりません。でも、私が本当に
それを望むなら、少なくとも走り続けなきゃならいってこと。でないと、
次は絶対にやってきませんからね。

 もうひとつ。フルメンバーで過ごしたのは1日と少しの時間でしたが、
私としては「急造 team JAPAN」の居心地が最高でした。一人一人、とても
個性的で、その個性が上手く相乗効果して協調できていたんじゃないかなと
感じました。自転車のイベントなんて走り出しちゃえば、協調性なんて必要
ないように思えますが、結構コレって大事なんですよ。

 でもそれは、ベースに久保さんとクリスのコンビがあってのこと。最高の
スタッフですよ、お世辞抜きで。だから、私のように現地の生活に不安を
感じて、挑戦をためらっている方には『心配ないよ!』と太鼓判を押します。
#仏語わからなくても、英語少ししか喋れなくても....何とかなります。

 私が弦巻さんのレポートを読んで、扉を叩いたように、このレポートを
読んで「よっしゃ、来年はオレが!」って思ってくれる方が現れることを
強く望みます。


 最後に。
 自らの振る舞いで私の背中を押してくれた息子と娘に。私の勝手気ままな
行動を、ほったらかしているようで、いつも支えてくれている女房に。
心から感謝します。本当にありがとう。


Staff Comment
 この度は、貴重な休暇を利用して、「ラ・マーモット」参加ツアーにご参加いただき、ありがとうございます!
世界最高峰のレース「ツール・ド・フランス」の中でも、もっとも有名で厳しい「ガリビエ峠」と「アルプデュエズ」を舞台とする
グランフォンド発祥の地での大会完走、本当におめでとうございます!!

日本では絶対に経験できない、壮大なスケール、本場フランスアルプスの絶景の中走るY様は、少年のように
輝いていました。
トッププロ選手でさえ苦しむ、グランドン、テレグラフ、ガリビエ、アルプデュエズを制覇したことは、サイクリストとして一生の勲章です。
そして同時にサイクリストとして、このコースを走らずに終わってしまうのは本当にもったいないと、いつも思っております。

この経験をぜひ日本のサイクリストにも広めて頂けたら嬉しいです。
来年も、フランス自転車界に精通したスタッフ陣で、ツアーを企画しておりますので、またのご参加を心よりお待ちしております。

フィールズ・オン・アース
久保、クリスチャン






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