2016 UTMB参戦記その2 奥村様

 【In Chamonix】
2016年8月23日(火)午後、僕はAéroport de Paris-Charles-de-Gaulle(仏:パリ=シャルル・ド・ゴール空港)からGenève Aéroport(スイス:ジュネーヴ空港)へ向かうAir France機の中にいた。Genève Aéroportへ向けて飛行機が降下を始める頃、機窓から眼下を眺める。緑と茶色の大地にそそり立つ雪を纏った山々が目に飛び込んできた。「一体なんなんだ、この山は?」。答えを出すのに時間は要しなかった。僕とMont Blancの初めて出会いであった。あまりにも壮大で気高い姿に形容する言葉がすぐには見つからない。
 

その昔、キリマンジャロの頂を目指した一頭の豹がいた。その豹は。「神の館」といわれる西側の頂上近くで力尽きた。ひからびて凍りついた屍となったが、今でもキリマンジャロに佇んでいる。屍になった豹は空を見上げている。熱帯に住む豹がキリマンジャロに登れたのだろうか。それよりなぜ豹はキリマンジャロを目指したのだろうか。アフリカで狩猟をしていた新聞記者ハリー・ストリートの気分だ。
 
3日後にこの山々と戦うのか?助け合うのか?共存するのか?よくわからない。いずれにしてもただ者ではないオーラを存分に醸し出している。この山々を一周巡るとはとてつもないことだ。少なくともゴールする前に屍にはなりたくない。
期待と不安を胸にGenève Aéroportに降り立つ。空港に迎えに来てくれていた現地Fields On Earth スタッフ(FOE-Staff)の送迎車に我々チーム一行は乗りChamonixへ向かった。Chamonixに着く頃は日も暮れて肌寒かった。日本人がオーナーのシャレーにチェックインし皆で遅めの夕食を取り床に就いた。前入りしていたTeam Doctor Mr.Ninoは明日早朝のTDS(119km 7,250D+)スタートに備えて早々に床についていた。

 
 8月24日(水)午前3時頃、シャレーのリビングが騒がしい。起きてみるとTD.NinoがTDSのスタート地点Courmayeur(伊:クールマイヨール)へ向けて出発準備をしていた。真っ暗な外に出ると他のTDS参加メンバーMr.Kusaka & Princess.Sayakaが送迎車中にいた。TDS3人組みを暗闇の早朝見送った。彼らも午前6時にスタートし119km 7,250D+ 33時間の旅にでる。難易度はUTMBよりもTDSの方が高く設定されていて危険で過酷である。「3人そろってゴールのChamonixに無事に帰って来いよ !!」と心の中で叫んだ。

もう一寝入りし、朝陽で自然に目覚めた。シャレーのバルコニーにでてみた。ひんやりして肌寒いがとても気持ち良い朝だ。ふと見上げるとMont Blancが眼前に迫りドミノのように今にも倒れてきそうに迫っていた。昨日のGenève Aéroport行き機窓からとはまた違った表情だ。Chamonixの街からにょっきりとした山々は天に向かってそそり立っていた。その山々は一つ一つが雪を纏い実に優雅で壮大にそびえている。UTMFの天子山地が山塊ならMont Blancは山の群れ“山群”だ。よく見るとその姿は、天に突き抜けているというよりは、Chamonixの街に天が落ちてこないように天を支えている。その姿は実に“い”。“きMont Blanc”だ。Chamonixは“景峻”と共に生きているんだ。“共生(ともいき)”どこかで聞き親しんだ言葉だ。僕もこれからの一週間を“景峻”と“共生”したい。

関西空港から共にしているアラフィフ三銃士Mr.Kuriyan & Mr.Decoと朝食のパンを買いに街にでた。煉瓦造りのアンティークな町並みが拡がる。早朝なのか登山に向かう人々がロープウェイ乗り場を目指している。我々はほどなくパン屋を見つける。早朝に関わらず込み合っている。小さなパン屋ながら店内はフランスパンであふれている。さすがパンの本場フランス。バケット一本が2€(1€≒120円)前後で安い。これをサンドイッチにすると4€前後になる。僕はサンドイッチ(4€)とドライフルーツが練りこんだパン(1.5€)を買った。サンドイッチと言っても、細くてやや短い1バケット(30cm弱)にレタスとハムが挟んでありでかくて一本で十分お腹を満たすことができた。

午前はFields On Earth主催:大瀬選手の試走会に参加することになっていた。ゴール手前最後の峠La FlegereからChamonixまでの8km下りをゆっくりと10名くらいで楽しみながらワイワイとおりた。La Flegere標高1700mから望む“景峻”は一層雄大に見えた。向こうからもあいさつを受けたように感じる。

 

この試走会には、今やSEKAINO.Kaori(2016UTMB:8位)も参加していた。彼女は7月のスペインでの世界選手権からChamonixに移動し丹念にUTMB試走を繰り返していた。試走しながらレース攻略法等を教えてもらった。コースは険しいけれども山と山のつなぎ等は走れるところが多いので、心折れることなく走り続づけると時間が稼げる。一方、スイス以外の山岳はガレている所が多いので捻挫等に気をつけて注意して走る必要がある。前半のポイントはCol de la Seigne(仏伊国境:セーニュ峠60km地点)の大きな浮岩と雪渓の急坂続きとのことである。後半はGrand Col Ferret(伊瑞国境:フェレ峠100km地点)からの20km超の長い下り坂で足をいかに残して下るかが大切とのことである(これは大瀬選手曰く)。いずれにしてもすべてがポイントであることに間違いないと実感した。


  

試走が終わるとMr.Kuriyanは息子が参加する当日受付のジュニアのトレイル大会を応援に行った。Mr.Decoと僕は、各メーカーshopをうろうろした。世界中のメーカーが一堂に会して凄い賑わいであった。”シガウマラ”(滋賀のトレランチーム)と”利やん”(大津の居酒屋ランニングチーム)にお土産としてUTMB限定のBuff等を購入した。その後、UTMBのゲートを見に行った。Chamonix中心街で教会を背にドーンと胡跪の姿勢で鎮座していた。日本で言うと、銀座4丁目時計台前にゲートを設置した感じだ。何とも言えないオーラを感じた。ここで”利やん”から頂いた応援旗と記念写真を撮った。

  Chamonix中心街は、お酒を気軽に振る舞う店が昼間から賑わっている。人々がパスタ、肉、ピザをあてにワインやビールを堪能している。それぞれの住居は緑と華で溢れている。季節と国は異なるが“江南の春”「千里鶯啼いて緑紅に映ず。水村山郭酒旗の風」を回想させる情景だ。その後、スーパーで晩御飯の肉と野菜等仕入れてシャレーに戻った。
 
 午後は14時からUTMB受付が始まる。事前情報では14時は大混雑で2時間待ちはざらと聞いていたので、受付終了30分前の19:30頃に受付に行くことにした。昼は軽く昼寝とジャグジー風呂でリフレッシュし、我々は19時頃にゆっくりと街にでた。
するとChamonixの街には似つかわしくないベタベタの関西弁女子“イグマル”コンビに遭遇した。出会うなりマシンガンのように話しかけてくる。なんでこんなにテンション高いねん?でも、気分がさらにリラックスできた。やっぱ関西弁は癒される。彼女達は、先週までマッターホルン周辺で開催された過酷なトレイル大会を完走し、UTMBを応援するために昨晩Chamonix入りしたらしい。この行動力には頭が下がる。



受付会場Centre Sportifに到着すると、なんと、本日の受付は終了とスタッフに告げられた。つたない英語で交渉するも聞き入れられず。そうすると、Mr.Kuriyanが芝生から受付入口に斜めから何食わぬ顔をして突入していった。侵入成功である。イグマルからMr.Decoと僕にも「あんたらも突入してき~な」と命令される。小心者の2人はおどおどしながら芝生から斜めに入口に進むも足がすくむ。再度イグマルに促され(大会スタッフよりもイグマルの圧力の方が怖い)、侵入に成功した。受付最後尾に並び1時間弱ほど並ばされ何とか受付を済ませる。受付時に装備チェックがランダムにされる。僕は、スマートフォン等をチェックされた。ゼッケンを手にすると気持ちが自然と高まった。建物を出た頃は夕陽が沈んだ瞬間だった。“景峻”は黒く聳えて少し不気味に見えた。

その後、イグマルが滞在するマンションのような宿舎に行った。関西からのUTMB参加者や応援者で溢れていた。皆で少し談笑し写真を撮ってシャレーに帰って遅い晩御飯を摂り寝た。
   


その3へ続く・・・


Staff Comment
 





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