こちらで紹介する作曲家は、オーストリア生まれ、もしくはベートーヴェンやブラームスのようにドイツで生まれてウィーンで活躍した偉人達です。各人物の説明は少し長いですが、旅のプランの参考にして頂ければ幸いです。
オーストリアエクスプレスと姉妹サイトのドイツエクスプレスでは、数多くの音楽の旅をお客様に提供しております。是非ご興味ある箇所をご覧ください。

フランツ･ヨーゼフ･ハイドン（1732-1809）は、ハンガリー王国との国境にあるローラウ村に誕生。幼い頃から音楽に才能を発揮し、8歳の時にシュテファン大聖堂の監督に才能を認められ、聖歌隊員（定員6名）の1人となります。1749年、変声期を迎えたため18歳で聖歌隊をやめます。ちなみに弟ヨハン･ミヒャエル･ハイドン（1737-1806）も1745年に聖歌隊の隊員になります。

1761年、ハンガリーの大貴族エステルハージ（Esterházy）家の副楽長になり、1766年楽長に昇進。その後30年間エステルハージ家に仕え、数多くの作品を作曲しました。

50歳頃からハイドンはモーツァルトと親しく交流。また、22歳のベートーベンも60歳のハイドンの元で作曲の勉強をしています。晩年は２つの大作「天地創造」、「四季」を作曲。1809年、1793年から住むウィーンの家で息を引き取りました。享年77歳。この家はハイドン博物館として見学できます。遺体はアイゼンシュタットのベルク教会に眠っています。

ウィーンから列車で南に約1時間。ハンガリーとの国境に近い街アイゼンシュタット。大貴族エステルハージ家の宮殿があります。エスターハージー宮殿はオーストリアで最も美しいバロック宮殿の1つと言われ、大広間ハイドンザールではコンサートも開催。宮殿内のレストラン・ヘンリチ（Henrici）で美味しい料理と甘いエスターハージートルテはいかがですか？エスターハージートルテは、へーゼルナッツ入りのスポンジの層にカスタードやバタークリームが塗られたケーキでウイーンのカフェでも定番です。

ウィーンからの日帰り旅行におすすめです。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1756-1791）は、1756年1月27日にザルツブルクに誕生。父はドイツ・アウグスブルク出身でザルツブルク大司教に仕える宮廷作曲家。母はザルツカンマーグートのヴォルフガング湖沿いの美しい村ザンクト・ギルゲン出身。7人子供が生まれますが、成人したのは姉ナンネルとヴォルフガングのみでした。ザンクト・ギルゲンの家は姉ナンネルが結婚生活を送り、現在ヴォルフガング湖のモーツァルトハウスとして公開されています。*独語のみ

父は息子の才能を見出し、王侯貴族に売り込むため家族で度々演奏旅行に出掛けました。ミュンヘンではマキシミリアン3世、ウィーンではマリア・テレジアと皇帝フランツ1世、パリでルイ15世の御前で演奏。イタリアへは3度も行きました。シェーンブルン宮殿の鏡の間で6歳のモーツァルトが演奏した後に、マリア・テレジアの膝に乗り、女帝の首に腕をまわしキスをしたことは有名です。また、史実か分かりませんが、広間で転んだモーツァルトを助けた当時7歳の王女（後のマリー・アントワネット）にプロポーズしたという逸話もありますね。演奏旅行のおかげで、ヨーロッパ中に神童としてその名が知れ渡ったそうですが、パトロンとなる宮廷は見つけられませんでした。1781年モーツァルト25歳の時、以前から対立していたザルツブルク大司教と大喧嘩し、以降ウィーンに定住し自由に作曲活動を行います。作曲やピアノ・レッスンが収入源となりました。

ウィーンの多くの歴史的名所は、同時にモーツァルトゆかりの地です。
モーツァルトは、1781年のクリスマスを皇帝ヨーゼフII世（マリア・テレジアの息子）とともにハプスブルク家の住居ホーフブルク王宮で過ごしています。1782年26歳のモーツァルトは、シュテファン大聖堂にてマンハイムの音楽家の娘で、「魔弾の射手」で有名な作曲家カール・マリア・フォン・ウェーバーの従姉であるコンスタンツェ・ウェーバーと結婚。夫妻はウィーンの音楽界・社交界を活動の場とし6人の子供を得ましたが、成人したのは2人だけでした。1786年モーツァルトは現在の国立図書館プルンクザールでコンサートシリーズを開催。同じ1786年シェーンブルン宮殿のオランジェリーでは、皇帝ヨーゼフII世の希望により「音楽コンテスト」が開催され、モーツァルトと宮廷楽長アントニオ・サリエリが対決。皇帝はサリエリに軍配を上げました。

1790年34歳当時のモーツァルトは成功の頂点にありました。「コジ・ファン・トゥッテ」が初演され、1791年には「皇帝ティートの慈悲」と「魔笛」が続きます。しかしレクイエム作曲中、モーツァルトは病に倒れ、1791年12月5日に世を去ります。享年35才。彼の葬儀は、婚礼と同様シュテファン大聖堂で行われました。

ノスタルジックな雰囲気の漂う聖マルクス墓地。モーツァルトが埋葬されたと思われている場所に「嘆きの天子」像が立っています。ザンクト・マルクス墓地はモーツァルトが亡くなる7年前から墓地として使われましたが、1874年に巨大な中央墓地が出来たため、現在公園として保管されています。中央墓地には、音楽家達が眠る３２Ａという区画があります。中央墓地第2門（Tor2）から200メートルほど。モーツァルト記念碑も建っていますよ。記念碑をを真ん中に挟んで左奥にベートーベン、右奥にシューベルトのお墓。仲の良かったブラームスとヨハン・シュトラウスも隣同士です。ザンクト・マルクス墓地もウィーン中央墓地も市電71番路線上です。どちらも静かな自然の中にありますので、貴重な時間を過ごせると思います♪

また、ウィーンにはシュテファン大聖堂近くのモーツァルトの住居がモーツァルトハウスとして公開されています。この家では「フィガロの結婚」が作曲されました。

ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン（1770-1827）は神聖ローマ帝国時代のボン(ドイツ）に生まれ、オーストリア帝国時代のウィーンに没しました。

誕生から22歳でウィーンに移住するまで～ドイツ・ボン時代～
ベートーヴェン一家で最初に音楽家となったのはルートヴィヒの祖父でした。宮廷歌手だった祖父がボンに移住、楽長にまで上り詰めます。父ヨハンも宮廷歌手となりますが、酒におぼれ、祖父が亡くなると一家の生活は困窮していきます。

ルートヴィヒは父から音楽の才能を見出され、第２のモーツァルトを目指し厳しい音楽教育を受けます。度を越えた教育は虐待にも近いもので、後に持病として一生苦しめられる難聴の原因になったのではと言われています。13歳で『ドレスラーの行進曲を主題とする変奏曲』を初出版、翌年ピアノ・ソナタ3曲をケルン選帝侯に献呈、ルートヴィヒ少年はその才能を余すところなく発揮していきます。困窮する一家の生活を音楽家として支えました。16歳でウィーンを旅した際、ルートヴィヒは敬愛するモーツァルトを訪ね、面前でピアノの即興演奏を披露。弟子入りを希望しますが、母危篤の知らせを受け、ボンに戻ります。母の死の6年後、父も亡くなり、ベートーヴェンはウィーンに移住します。モーツァルトは、ベートーヴェンがウィーン入りする1年前になくなっていたため、弟子入りの願いがかなうことはありませんでした。

誕生地のボンには、4歳まで暮らした生家、『ベートーヴェンハウス』があり、内部は記念館として見学できます。直筆の楽譜や演奏した楽器など貴重な品々が展示されています。ボンでは毎年9月頃、ベートーヴェン音楽祭が開催され、好評を博しています。


ウィーンに移住
1792年22歳の時、当時第一人者だったヨーゼフ・ハイドンに入門します。ハイドン多忙のため、師弟関係は自然解消となりますが、ウィーン移住後、ピアノ即興演奏の名手として名声を博し、演奏作曲家としても地歩を築いていきます。ウィーン生活が軌道に乗ると、弟たちをウィーンに呼び寄せ、親代わりとなって世話をします。順調な音楽家人生の一方で、20歳代後半から持病の難聴が悪化、暗い影を落としていきます。人生に苦悩し、32歳のとき、ウィーン郊外のハイリゲンシュタットで「ハイリゲンシュタットの遺書」を記し、自殺を考えるものの苦難を乗り越える道を選択します。40歳の頃には完全に聴力を失い、全く耳が聞えない状態のまま、56歳で亡くなるまで、16年にわたり音楽活動を続けました。

ベートーヴェンの作曲スタイルは、楽譜を何度も書き直し、修正を重ねていくというものでした。スランプも多くモーツァルトのような天才肌というよりは、努力の人といえましょう。苦悩に溢れた人生を懸命に生きたベートーヴェンの音楽は、それだからこそ聴くものの感情を激しく揺さぶるのかもしれません。 ベートーヴェンの人生に思いを馳せながら、所縁の地を訪ねてその人生をたどってみてはいかがでしょうか。　


★ ベートーヴェン・パスクヴァラティハウス　※ウィーン：リンク周辺
建物の名「パスクヴァラティ」は、持ち主のパスクヴァラティ男爵の名前に由来しています。
パスクヴァラティ男爵はベートーヴェンのパトロンで、生涯に渡って友情関係を保ちました。転居の多かったベートーヴェンですが、この建物には1804年からの4年間と、1810年からの4年間、合計8年間ほど暮らしています。この家では、オペラ「フィデリオ」や交響曲第5番「運命」､「レオノーレ序曲第3番」、「ピアノ協奏曲第4番」、「エリーゼのために」など有名な曲が多数誕生しています。建物5階がベートーベン記念館になっており､ベートーヴェンが実際に使用したピアノ、直筆の楽譜や遺品などが展示されています｡


★ベートーヴェン・ミュージアム（ハイリゲンシュタット遺書の家）
ウィーン北部の19区ハイリゲンシュタットに現存するベートーヴェン・ハイリゲンシュタット遺書の家にあった40㎡の記念館が拡張され、2017年11月末に265㎡の大規模なベートーヴェン・ミュージアムが新オープンしました。1802年、32歳の時、この家でベートーヴェンは、弟たち宛てに「ハイリゲンシュタットの遺書」をしたためます。この手紙には、心の奥底にある多くの考えと次第に悪化していく難聴への絶望が記されていますが、結局この手紙は発送されませんでした。ベートーヴェン・ミュージアムでは大作曲家の人生と作品を、最新の研究レベルで紹介しています。展示品の中には初期の補聴器や「プロンプターボックス」（音波を強化するためのもの）などもあります。オーディオ・ステーションでは、ベートーヴェンの難聴を追体験できます。

★エロイカハウス　※見学には2週間前までに事前予約が必要です。
ベートーヴェン・ミュージアムから数キロ離れた場所に、ベートーヴェンが1803年から翌年にかけて過ごした家があり、内部の3室が展示室となっています。ベートーヴェンが交響曲第3番「英雄（エロイカ）」を書き上げた時に住んでいたことから、「エロイカハウス」の名がつけられました。交響曲第3番「英雄（エロイカ）」は、尊敬する英雄ナポレオンに捧げる予定で書かれ、「ボナパルト」というタイトルがつけられていましたが、皇帝となったナポレオンの独裁ぶりに憤慨し、献呈をとりやめたといわれています。

★ベートーヴェンの散歩道
ベートーヴェンが交響曲第6番「田園」を作曲した「ベートーヴェン夏の家」（一般公開はされていません）近くのシュライバー川という小川に沿って続いている道は「ベートーヴェンの散歩道」と呼ばれています。緑も多く、この道を歩きながら交響曲「田園」の構想を練ったといわれています。今でも当時の面影を残しており、散歩道の置くの広場にはベートーヴェンの胸像があります。

★グリーヒェンバイスル
1447年創業の老舗で、作曲家ベートーベン、シューベルト、ブラームス、ワーグナーなどが訪れているレストラン。ベートーベンのサインが残されています。歴史あるお店で、本格的なウィーン料理を楽しめます。

フランツ・シューベルト （1797 - 1828）は、ウィーン郊外のリヒテンタールに生まれ、生涯ウィーンで過ごした作曲家。ドイツ歌曲の王と言われています。

シューベルトは1797年、小学校教師の12番目の子供として生まれました。11歳の時、宮廷オーケストラの少年合唱団に参加し、作曲の分野でサリエリの門下生の1人となりました。変声期になり合唱団を離れ、父親を手伝って助教員（3年ほど）となります。と同時に、作曲家としての一歩を踏み出します。わずか17歳で交響曲とミサ曲一篇と、有名になった数篇の歌曲を書き上げました。ロマンチシズムにあふれた青年は、詩やバラードに深い感銘を受け音楽をつけました。こうして、一つの楽器、または小編成のアンサンブルの伴奏で歌われるドイツ・リートという音楽の一形式を作り出し、11年間に600以上の歌曲を書き上げました。

教職を離れた後は、創作活動に専念し自由な気ままな生活を始めました。午前中は作曲、午後は散歩を楽しんだり、友人たちの集まりでピアノを弾いたりしました。シューベルトはドイツ・リートのジャンルを創り出す傍ら、交響曲（25歳で未完成交響曲）、ミサ曲、弦楽四重奏曲、ピアノソナタ、そのほかの室内楽曲や舞踏曲をたくさん遺しました。彼は生涯中流下の階級の言葉遣い、質素な身なり、習慣を変えないで過ごしました。

敬愛するベートーヴェンが逝去した翌年に31歳でこの世を去りました。中央墓地にベートーヴェンと並んで墓石を見ることができます。シューベルトの生まれたアパートは9区にあり、シューベルトの生家として公開されています。

シューベルトの足跡はこちら

父ヨハン・シュトラウス（1804-1849）はウィンナ・ワルツの基礎を作り、「ワルツの父」と呼ばれる作曲家。居酒屋を営む両親を早くに亡くし、ヴァイオリンやビオラを弾き、生活の糧を得ていたそうです。15歳の時、ダンス音楽の作曲家として著名なヨーゼフ・ランナー楽団からスカウトされます。ランナーの下で修行を積んだ父ヨハンは、演奏だけでなく作曲活動まで始め、1825年21歳で自分自身の楽団を新たに立ち上げました。

息子ヨハン・シュトラウス2世（1825-1899）が生まれたのは、ちょうどこの頃。彼も音楽の才能に恵まれていましたが、父は息子が音楽家になることには反対で、大学では経済学を専攻。それでもヨハン・シュトラウス2世は、父の楽団員からヴァイオリンを、教会のオルガン奏者から音楽の基礎を学びました。父が妻子を残して若い女性と再婚してからは、息子へ支配力は弱まり、18歳でデビューコンサートを行います。翌年には、自分のオーケストラを持ち、父の楽団と張り合うようになりました。24歳の時に父が他界すると、ヨハン・シュトラウス2世は父の楽団をそのまま引き継ぎ、ウィーンを代表する人気音楽家として本格的に歩み始めました。

最初の帝政ロシアへの演奏旅行は大成功で、ヨハン・シュトラウス2世は父の後を継いで宮廷舞踏会の音楽監督に就任。28歳の頃には300人の楽器奏者を雇い、毎晩カフェやレストラン、ダンスホールで演奏。一日に6～7ヵ所で指揮するほどの人気と多忙を極めたといいます。

1862年、活発なヘンリエッテ・トレフツと結婚。妻が事務的な仕事をきりもりしたので、シュトラウス２ 世は安心してワルツやポルカ、ギャロップなど生命力に満ちた作品を作曲。ブラームスもワーグナーも、シュトラウスの音楽的感性の深さ大いに讃えていました。

オッフェンバックとの出会いから、シュトラウス2世はオペレッタを手掛け始めます。オペレッタやオーケストラ曲を書き続け、ワルツを洗練された芸術の域まで高め、1899年74歳で永遠の眠りにつきました。

ウィーンにはシュトラウス2世が最初の夫人と暮らした家が記念館となっています。当時のままの家具調度品や楽器、日常の愛用品、肖像画や写真、貴重な資料が展示されています。住所　Praterstraße 54, 1020

また、18歳でデビューコンサートを行ったカフェ・ドムマイヤーはシェーンブルン宮殿の近くヒーツィングにあります。カフェ前には記念碑もあります。また、市立公園に立つシュトラウス2世像はウィーンの顔ともいえる像ですね。お墓は、中央墓地の区画第32Ａで仲の良かったブラームスと並んでいます。音楽家の眠るこの区画は中央墓地第2門（Tor2）から200メートルほど。リンク通りのSchwarzenbergplazから路面電車71番で着きます。

アントン・ブルックナー（1824-1896）は、オーストリアのリンツ近郊の村アンスフェルデンに誕生。音楽家としてはとても遅咲きでした。父は小学校の校長兼オルガニスト。12歳で父親が亡くなると、すぐにリンツの聖フローリアン修道院聖歌隊の寄宿舎に預けられます。16歳でリンツの師範学校に進学。24歳で小学校教員兼聖フロリアン修道院のオルガニストに就任。30歳でリンツ大聖堂の正オルガニストに就任し、ようやくプロの音楽家となりました。同年、ウィーンの音楽理論家ジモン・ゼヒターに弟子入り。「荘厳ミサ曲」を見たゼヒターはその才能を見抜き、ブルックナーは以降6年間37歳まで厳しい研鑽を積みます。

38歳で、ブルックナーはワーグナーの《タンホイザー》に衝撃を受け、管弦楽曲の作曲に没頭し始めます。42歳で交響曲第1番完成。翌年、ウィーン音楽院の教授に。ウィーンでは、まずオルガニストとして評価されますが、交響曲はなかなか認められませんでした。交響曲第2番も第3番もウィーン・フィルから演奏不能といわれてしまいます。52歳で大傑作の交響曲第5番を完成しますが、これも演奏機会に恵まれなかったようです。ようやく1883年交響曲第7番を完成させ翌年、大指揮者二キシュがライプツィヒで初演。大成功をおさめ、ブルックナーの以前の交響曲が初演再演が繰り返されるようになります。これが1884年、ブルックナーは既に60歳となっていました。1887年63歳で代表作・交響曲第8番完成。1891年66歳でウィーン音楽院を退職。5年後の1896年69歳で神様の下へ。亡骸は彼の希望で、聖フローリアンの、彼が愛した大オルガンの真下に埋葬されました。

ブルックナーは生涯独身でコミュニケーションが不得手な不器用な人だったそうです。しかし一途にオルガン曲と交響曲ばかりを作曲した稀有な才能の持ち主だったのでしょう。ブルックナーの交響曲は宇宙的な広がりを持つと言われています。

ブルックナー所縁のリンツは、ウィーンとザルツブルクのほぼ真ん中に位置するドナウ河沿いの美しい街です。毎年秋、リンツのブルックナーハウスでブルックナー音楽祭が開催されています。ブルックナーが聖歌隊とオルガニストを勤め、亡骸も眠っている聖フロリアン修道院は絢爛豪華。メルク修道院とともにオーストリアの重要なキリスト教建築物です。コンサートも頻繁に行われています。レストランStiftskellerでは修道院所有地から取れた野菜や肉・魚を使ったお料理を楽しめますよ。
*ザンクト・フロリアン修道院へはリンツ中央駅から410番のバスで約30分。St.Florian Gendarmerieplatz下車。徒歩10分。修道院からリンツへは修道院すぐ近くのSt.Florian Stiftから乗れます。

また、リンツ発祥のリンツァートルテは小麦粉とアーモンド粉を半々ほど混ぜて焼いたさくさくしたケーキです。リンツでリンツァートルテを食べるなら、コンディトライ・ユインドラック。市内に数店舗かありますが、お勧めが街の中央広場から出ているペストリング登山鉄道に乗って20分、ユインドラックのペストリングベルク店です。ドナウ川とリンツの町が見渡せる素晴らしい眺めが広がります。一度、ブルックナーのリンツと聖フロリアン修道院を訪れてみてはいかがでしょうか？

ヨハネス・ブラームス（1833年 - 1897年）はコントラバス奏者の父の元、3人兄弟の長男としてハンブルクに誕生。幼少時から音楽の才を表しますが、生家が貧しかったため、10代前半から居酒屋などでピアノを演奏していたそうです。

20歳の頃デュッセルドルフのシューマンに会いに行きます。シューマンはブラームスの演奏と音楽に感銘を受け、自ら創刊した音楽雑誌でブラームスを絶賛し、ブラームスの作品を広める重要な役割を果たしました。デュッセルドルフでは、ブラームスは14歳年上のクララ・シューマンと知り合い、シューマン没後も親しく交流を続けました。恋愛関係と思われた時期もありましたが、結婚はしませんでした。

39歳でウィーン楽友協会の音楽監督就任のためウィーンへ引越し。音楽監督は42歳で辞任。作曲家として地位が確立し出版者からの報酬だけで充分生活できたためと言われています。楽友協会にはブラームスザール（ホール）があります。初演はクララ・シューマンだったそうです。辞任後もブラームスは、ウィーンを拠点にし、ヨーロッパ各地で指揮やピアノ演奏を行いました。多忙だったため、夏には保養地（スロヴェニアとの国境ヴェルター湖畔のペルチャッハやザルツカンマーグートのバート・イシュル等）に長期間滞在して、数々の名曲生み出しました。晩年は、バート・イシュルで夏を過ごし、ヨハン・シュトラウス一家とお互いの別荘を訪問しあう仲だったそうです。

ブラームスはクララ・シューマンの亡くなった翌年63歳で亡くなります。生涯独身。看取ったのは大家の女性だったそうです。お墓はウィーン中央墓地にあり、隣にはヨハン・シュトラウスが眠っています。

誕生の地ハンブルクにはもう生家はありませんが、ブラームス博物館を訪れることができます。オーストリアのミュルツツーシュラークにもブラームス博物館があります。ミュルツツーシュラークは世界遺産センメリング鉄道の終点の駅。ウィーンから南西約100Km、小さな可愛らしい町です。1884年と85年の夏にブラームスは避暑に訪れ、交響曲4番を作曲。滞在した家が現在博物館として公開されています。

交響曲第2番を作曲したといわれる、ヴェルター湖畔の美しい町ぺルチャッハでは毎年9月にブラームス国際コンクールが開催され、日本の音楽家も多数入賞しています♪

また、瀟洒な温泉保養地バーデン・バーデンに、クララはシューマン亡き後10年ほど居を構えましたが、ブラームスもまた1865～74の間、部屋を借りて、ルター訳ドイツ語聖書からの章句で構成されたドイツ・レクイエムや、交響曲1番と2番を完成させました。現在、リヒテンタール地区にあるこの家もブラームスハウスとして公開されています。

グスタフ・マーラー（1860-1911）は、オーストリア帝国ボヘミアのイグラウ（現在チェコのイフラヴァ）にて酒造業で成功したユダヤ人の父母の間に誕生。兄弟14人のうち7人が夭折。すぐ下のエルンストの死をマーラーは特に悲しんだそうです。父ベルンヘルトは荷馬車に乗りながらいつも読書をしている、勤勉な人でしたが、家族の前では暴君で、後のマーラーの激昂する性格に影響を与えたといわれています。しかしマーラーの才能を見出し、その才能を開花させるために、あらゆる努力をしたのも父でした。

15歳で当時最高の教育を受けられるウィーン楽友協会付属音楽院に、富農の援助で入学。学内ではピアノと作曲で1位をとるほど優秀な成績でした。この時期、ウィーン大学で教える50代のブルックナーと知り合い、その後長く交流を続けます。

卒業後は、カッセル、プラハ、ライプツィヒ、ブダペスト、ハンブルクなどの劇場で仕事。1897年から1907年の10年間はウィーン宮廷歌劇場で活躍し、大指揮者として全盛期を迎えます。ヨーロッパ各地で音楽監督を歴任後、1909年49歳でニューヨーク・フィルの指揮者となりました。

1902年41歳で、18歳年下の恋多き美人作曲家のアルマ・シントラーとウィーンのカールス教会で結婚。妻アルマは、マーラーから結婚後、自身の作曲を禁止されてしまいます。2人の間には娘が2人誕生しますが、1907年に長女マリア・アンナが幼くして亡くなってしまい、マーラーも心臓病と精神病に。この頃アルマは建築家で後にバウハウスを創設するヴァルター・グロピウスとの恋愛関係を始めたとされています。そして1911年、50歳でマーラーが亡くなります。32歳で未亡人となったアルマは、画家ココシュカから求婚。ココシュカの代表作「風の花嫁」はアルマとの濃密な関係を描いたものと言われています。ココシュカとは結婚しませんでしたが、グロピウスそして作家のヴェルフェルと再婚しました。

壮大で流麗な交響曲と歌曲を作曲したマーラーは、後年「私は三重の意味で故郷がない人間だ。オーストリア人の間ではボヘミア人、ドイツ人の間ではオーストリア人、そして全世界の国民の間ではユダヤ人として」と語っています。美しいメロディの底に、どこか悲しみが感じられます。ウィーンのグリンツィングの墓地に愛娘とともに眠っています。マーラーの墓石の近くにアルマの墓石もあり、アルマ・マーラー＝ヴェルフェルと刻まれています。

ゆかりの場所としては、1893年から96年の夏、交響曲2番と3番を作曲したザルツカンマーグートのアッターゼー湖のシュタインバッハのホテル・フェッティンガー裏庭の作曲小屋。交響曲第5番から第8番や「亡き子をしのぶ歌」を作曲したヴェルター湖のマイアーニック(Maiernigg)にあるマーラー・ヴィラ。また、傑作・交響曲第9番と「大地の歌」を作曲した南チロルのトブラッハ（第1次大戦後イタリア領ドビアーゴ）にある作曲小屋などです。