新しい旅の可能性を求めて

ヨーロッパ旅行でさえ、まだ知らないデスティネーションは無数にあるが、数年後には新しい次元の旅が選択肢に加わりそうだ。それは宇宙というデスティネーション。2016年に盛り上がりを見せた宇宙業界。その流れは2017年、2018年も続きそうで、宇宙旅行を始め、月周回旅行、火星探索の旅など、今後も大きな目標が掲げられている。先月2017年3月には、アメリカのスペースX社によるロケットの再利用と回収の成功ニュースがあったばかりだ。これは宇宙業界でも歴史に残る快挙とされ、宇宙開発の更なる発展を後押しするという。

宇宙への旅は人類の夢ともいえるが、人はなぜ宇宙に憧れ、宇宙を目指すのか。確かに、これまで軍事的優位に立つために開発を急ぐ側面もあったし、あるいは、次世代産業として利益が見込めるために開拓を進める側面もありそうだ。勿論、高度な技術が要求される宇宙への挑戦は困難を伴うが、得られる果実もまた大きい。天気予報や携帯電話の通信、マップのGPS機能などを見ても、衛生がなければ存在し得ないし、宇宙開発の産物が身の回りで実用されていることは多い。こうして人類の新たな可能性を求めて宇宙開発は進められている。

すぐそこまで来た宇宙旅行

宇宙旅行の現状を見てみると、アメリカの民間企業が中心となり業界をリードしている状況だ。ヴァージングループのリチャード・ブランソンが率いるヴァージン・ギャラクティック社は、飛行機と分離する宇宙機での宇宙旅行を計画し、現在滑空テストを実施、2017年には動力テストを行う予定。 テスラモーターズのイーロン・マスクが率いるスペースX社は、カプセル型の宇宙船で月周回旅行を2018年に予定する。 またアマゾンのジェフ・ベゾスが率いるブルー・オリジン社もカプセル型宇宙船で2018年から宇宙旅行の商業化を目指す。日本からは旅行会社のHISとANAホールディングスが出資するPDエアロスペース社が、ジェットエンジンとロケットエンジンを持つシャトル型の宇宙船で2023年の宇宙旅行実現を目指す。

どの計画も単なる絵空事ではなく、数年後の実現に向けて進められている。これまでのロケットやスペースシャトルでは、ロケット部分を使い捨てる方法が主流だったため、コスト効率が足かせになっていたという。しかし、これらの民間企業の挑戦により、この最大の課題を克服したのが昨今の状況ということだ。最もコストのかかるロケット部分を再利用する、あるいは飛行機と宇宙機を組み合わせるなど、コスト効率を重視した方法で、飛躍的に開発スピードを上げている。

宇宙旅行、気になるお値段は

ロケットについては、すでにスペースXが多くの実績を上げており、ロケットが本来の目的を終えて、逆推進で地球に帰還するという、まさにサンダーバードさながらの世界が繰り広げられている。同社は2018年に月周回旅行を計画するが、料金は公表されていないものの、すでに2人の旅行客が予約を済ませているという。月を回って地球に戻る1週間の宇宙滞在になる。

一方、飛行機と分離する宇宙機で2時間の宇宙旅行を提案するヴァージン・ギャラクティックでは、すでに700人を超える人が予約を済ませている。費用は20万ドル（2,000万円）を超えるというから、最初は人握りの億万長者のためのツアーとなるが、日本人の予約もすでにあり、あとは出発の日を待つだけ。ツアーは訓練も含めて1週間となるが、2時間のフライトのうち高度100㎞を越える宇宙空間に滞在するのはわずか4分間だ。

またカプセル型宇宙船のブルー・オリジンでは、高度100kmの弾道飛行の宇宙旅行となる。15分ほどの打ち上げ時間のうち、こちらも4分間の無重力体験が可能というが料金はまだ未定とのこと。宇宙空間まで到達するには相当なエネルギーを要するが、この4分間のために人は宇宙を目指すものなのだ。

銀河エクスプレスが始まる時

こうして、宇宙旅行事業に取り組む各社は、旅を愛する顧客の新しいニーズに応えるために、新たな旅のフロンティアを切り開こうとしている。かつて『銀河鉄道の夜』で語られたような、列車に乗って異次元を旅するファンタジーの世界。小説のように宇宙空間の駅を行き来するには、まだ少し時間がかかりそうだが、近い将来、旅の目的地は地球だけではなくなるはずだ。

人それぞれ旅の目的地は異なるが、いつの時代も人は旅をし続けるだろう。なぜなら、人生の意味を問いかける小説の世界のように、旅は人生に必要な何かをきっと隠しているから。それを求めて人は旅をする。銀河エクスプレスが始まる頃、私たちの旅のデスティネーションは地球を越えていく。いまそんな地平が開かれ始めている。