アズレージョとはポルトガル語で”タイル”という意味ですが、ポルトガルの人々は昔からアズレージョに自分たちの歴史や文化、習慣などを描き、現代まで伝えているのです。
リスボンのシアード地区にあるアンティークなお土産屋さんには美しいアズレージョがたくさん並んでいます。タイル一枚だいたい10ユーロくらいから購入ができるため、アズレージョ柄のタオルやコップ、アクセサリーなど手軽なポルトガル土産の定番としても大人気なんです。
ということで、今回はポルトガルを彩るアズレージョの歴史をちょっとだけご紹介したいと思います。
元来アズレージョはペルシアなどイスラーム圏で生まれ、14世紀ごろにそれをスペインに赤と黄色を基調とした”アスレホ”として持ち込んだと考えられています。14世紀の当時はスペインとポルトガルがあるイベリア半島ではレコンキスタ(イスラム教徒に対するキリスト教徒の復権運動)の真っ最中であり、終結後の1503年に当時の君主だったマヌエル1世がスペインから帰国後にスペインのセビーリャからアスレホを大量に輸入しています。
15世紀後半から16世紀初頭までは建物の壁を覆うという用途で使われることが多く、特徴としては一枚のタイルの中で作品が完成しているという点。これが後にたくさんのタイルを一枚一枚別々に造り、一つの作品を完成させるスタイルに変化をしていきます。
青・黄・緑など比較的多くの色が使われているのが16~17世紀のアズレージョの特徴。王宮はもちろん教会や修道院などの壁にどんどん使われるようになったため宗教的なモチーフが多く見られます。そしてこの時期は、ポルトガルの探検家たちが世界を席巻していた大航海時代。アジアへの航路発見によってポルトガルに入ってきた、中国・日本などヨーロッパにとって新しい東洋文明は、「シノワズリ」と呼ばれる東洋風芸術文化を生み出しました。特に芸術面でこの影響は大きく、この時代のアズレージョには中国や日本の磁器に描かれている植物などの描き方や青を基調とした絵柄など顕著に影響が見られます。
17~18世紀はじめまでのアズレージョには、それまで東洋の画法を真似たモチーフを描くことに限られていたものが、色使いにまで現れ始めたこの時代。アズレージョが一般市民の間にも広がって、宗教画以外の日々の暮らしをモチーフにしたものが増えてきた時代でもあります。また、1755年のリスボン大地震によって一気に高まった需要によってより実用的なものが普及しました。
18世紀に入りシノワズリの流れがひと段落すると、17世紀には青一色のものが主流だったアズレージョの世界では、再び初期のように黄色や緑などの色が使われるようになります。また需要の高まりによって、スペインやイタリアなどからも陶工がポルトガルにやってきました。彼らがこの時にポルトガルへ持ち込んだのは、ルネサンス期に生まれたマヨリカ焼きという技法でした。この技法によってタイルに直接色付けをすることが可能になり、芸術表現の幅が一気に広がることとなります。
20世紀に入り、戦間期には巨匠ジョルジュ・コラソによってポルトのサン・ベント駅構内に現存する2万枚からなるアズレージョが完成しました。このアズレージョもポルトガル建国の歴史を描いたものなので必見です。
こうしたアズレージョの歴史をより深く学ぶのにぴったりな場所は、リスボンにある国立アズレージョ美術館です。地下鉄ブルーライン終点のSanta Apolónia駅から歩くこと15分と、すこし観光地中心部から離れているので観光プランから外されがちですが、これを見ずに帰るのはとても勿体ないです!
博物館自体はもともと1509年に建てられたマドレ・ドゥ・デウス修道院を改装した建物です。中庭を囲むように造られた回廊や、内壁の全面をアズレージョで飾った教会など、建物自体が美術館といっても過言ではないほどです。アズレージョ美術館の展示の順路は、14世紀にもたらされた初期のアズレージョから現代のものまで時代順になっています。時代によって変化していく作風を追っていけるのでとてもわかりやすい作りになっています。
館内で一番の見どころともいえる教会内部は、所狭しと敷き詰められたアズレージョの青と、大航海時代のポルトガルの繁栄を感じさせる黄金が眩しい場所です。一枚一枚緻密に計算されて描かれたタイル同士をジグソーパズルのように貼り合わせたものです。とにかくこの教会に入るためだけでも、この美術館を訪れる価値があります。二階部分には、現代ポルトガルの新進気鋭のアーティストたちが、伝統を重んじながら現代風のエッセンスを吹き込んだ現代のアズレージョの展示がされていて、600年にも渡って脈々と受けつがれているポルトガルの伝統を垣間見ることができます。
■サン・ベント駅(Sao Bento Station)
営業日:不定
住所: Praca Almeida Garrett, Porto, 4000069, Portugal
■国立アズレージョ博物館
営業日:10:00~18:00 月曜定休日
住所: Rua da Madre de Deus, 4, Lisbon, 1900312, Portugal
入店料金:5ユーロ
公式サイト(英語):http://www.museudoazulejo.gov.pt/en-GB/default.aspx