UTMBも予定どおり開催されるかどうか、まだわかりません。
5月中に発表が予定されています。
しかし、もしかすると予定通りに開催される可能性もまだ残されており、その時に向けて準備は進めていかなくてはなりません。
折角手にした夢の舞台への挑戦権、参加する限りは何としてもフィニッシャーベストを勝ち取りたいですよね!
世界最高峰のウルトラトレイル「UTMB」の各レースの完走を目指して、今現在この状況の中でどんなトレーニングをしたら良いか、2018年に32時間代でUTMBをゴールした、フィールズオンアース・スタッフの久保がフルタイムワーカーでそれほど多くの練習時間を取れない場合でも、完走を目指すための「等身大のUTMB対策」を更新してゆきますので、良かったら参考にしてください。
【UTMBで大切なのは山力よりも『走力』】
UTMBは累積標高約10000mの100マイルレースで、2500m級の山も含まれるため、多くの皆さんは南アルプスや富士山などの険しい山での練習、長時間行動をメインに準備する人が多いように見受けられます。 しかしながら、UTMBのコースには走れるフラットな区間も実はかなり多く、この走れる区間をいかにしっかり走れるか、が完走への大きなキーポイントとなります。
昨年2019年のUTMBでは約50名のツアーご参加の皆さんのサポートを行いましたが、そこで気が付いたことを書きます。
「前半の制限時間はかなり厳しい」
UTMBの最初の30㎞はLes Houcheの山一つ以外はほとんどフラット基調で、ひたすら走れるコースです。
そして31km地点、最初のサポートエイド「コンタミン」でタイムアウトになってしまう方が、予想以上に多い!という事を目の当たりにしました。
すなわち山力や長時間行動能力を必要とする前にタイムアウトしてしまっているという事です。
UTMB前半のコースプロフィール
【コンタミン31㎞の制限時間を安全にクリアするには「サブ4」の走力を】
コンタミン31㎞の厳しい制限時間を安全にクリアするにはフルマラソン「サブ4」の走力が最低限必要と考えます。
もちろんサブ4.5の走力でクリアできた方も居るかもしれません、しかし目標はあくまでも確実な「完走」とした場合、UTMBに挑戦するには最低限フルマラソン「サブ4」の『走力』を持ってスタートすることが必要と考えます。
でなければ、仮にコンタミン31㎞の関門をクリアできたとしても、78㎞のイタリア「クールマイヨール」までひたすら制限時間に追いかけられる厳しいレースを強いられ、常に完走ぎりぎりの綱渡りレースとなります。どこかで睡魔に襲われ減速したらアウトです。
なので、そういったリスクも考慮したうえで、多少の眠気で減速してもクールマイヨールまでに30分~1時間以上の貯金を作っていくためにはフルマラソン「サブ4」の走力は必要最低限と考えます。
【まず最優先に鍛えるのは走力】
コロナで山になかなか行けない現在、出来る練習は「サブ4以上の走力とスピード」の獲得です。これなら山に行かなくても家の近所で練習が可能です。 4時間以内にフルマラソンを走る走力とは「1㎞を約5:40以内で42.195㎞走り切れる能力」を指します。
つまりは「10㎞を約56分40秒以内」に走りきる力が必要となります。
まずはここを目指した練習をしましょう。 人が少なく感染リスクの低い場所を選び周回コースなどが良いかもしれません。
まず一度自分がどれぐらいの走力があるのか、10㎞タイムアタック、5㎞タイムアタックをしてタイムを計測します。
そして10㎞を56分40秒以内に走破できなかった場合は、UTMBの最初31㎞の「コンタミンの関門が危ない」と認識してください。
コンタミン31㎞の関門をクリアできなければ、いくら山の練習をたくさん積んできても、UTMBの山でその力を発揮できないからです。
そうならない為に、10㎞や5㎞のロード定点観測は必需です。 同じコースで定期的に10㎞や5㎞のタイムを計測し、自身のタイムが向上し続けているかを確認します。
【走力を上げるには、目標タイムより速いペースで練習する】
課題である走力を上げる練習は、とにかく「目標ペースより速いペースに体を慣らす」ことに尽きます。
目標ペースが1㎞5:40秒ならば、練習では「1㎞5:30~5:00」のペースでの練習を積極的に行います。
目標ペースが1km 4:30秒ならば「1km4:20~4:00」に設定します。
はじめは5:20秒で何㎞まで走れるか挑戦してみましょう。そしてその距離を徐々に伸ばしていきます。
5:20秒に慣れてきたら5:15秒、5:10秒とペースを上げていきます。
ウェイトトレーニングに例えるならば、現在60㎏のベンチプレスを10回あげられることが限界の人が、最終的に100㎏上げることを目標とした場合、60㎏より少ない40㎏のウェイトで何百回と回数をこなすことよりも、70㎏、80㎏のベンチプレスを5回、6回、7回と「過負荷」をかけてそれに慣らしていく方が、圧倒的に効率的なのと同じです。
超ロングレースである、100マイルレースでも、トレーニングの基本原則は同じです。
100マイルレース本番よりも遅く長い時間練習するよりも、短く速いペースを積み重ねることが、結果的に100マイルレースの完走、時間短縮につながります。
【走力と山力を同時に鍛えられる「坂道練習」】
UTMBへの完走課題の第1項目である「サブ4以内の走力」を鍛えつつ、同時に必要となる登坂力も鍛えられる練習があります。
「坂道練」です。 山に行けなくても、近所の短い坂道や階段を使って反復練習をします。
トレイルの本場フランスは、フランス中がアルプスやピレネーのような2000m超級の山だらけなわけではありません。ブルターニュやノルマンディ、ノール地方などは、全く山は無く、短い坂道しかないのです。彼らは山に行くためには東京在住者よりはるかに長い距離約500~700㎞移動しなければアルプスなどの山に行くことは出来ません。東京なら1~2時間で奥多摩や、3000m級の富士山にも行けます。日本はトレイルランニングの練習環境としては非常に恵まれた環境にあります。
上記のようにフランスで山が全くない地方に住んでいても非常に強い選手はたくさんいます。
そうした地域の選手がどのように練習しているか聞いたところ、やはり短い坂道をひたすら反復して登坂力を養っています。
坂道練習でも基本は「過負荷」を掛けた練習をしていきます。ゆっくり楽に登れるペースではなく、頂上では「ゼーハー」と息が切れるくらいのペースで繰り返します。出来るだけ近所で長く傾斜のきつい坂道や階段を見つけて、はじめは5本から、次第に10本さらには15本と反復回数を増やしていきます。回数だけを増やしてペースを落としては効果が半減しますから、初めはぎりぎり5回出来た同じペースで、次第にそれが楽になってきたら、1本2本と増やしていきます。 いろいろな斜度を含んだ周回コースにしてもよいでしょう。
私の場合は、周回コースだとすぐ気持ちが折れて帰ってしまうような、貧弱なメンタルだったので、途中で絶対に帰れないように家からひたすら坂道だけを拾い集めたロードの片道15㎞、ぐるっと回ってぴったり30㎞になる「16回坂道と階段のある30㎞コース」を設定して、毎月1~3回走るようにして「タイムを計測」し、そのタイムの向上を確認してUTMBに挑みました。この30㎞のロード坂道練習は、UTMBをはじめとする100マイルレースへの完走に極めて効果が高かったと実感しています。
私がUTMBやレユニオンの100マイル完走前に良く行ったロード坂道練習の30㎞コースプロフィール。
このコースをアベレージ5:13/km 2時間39分で2018のUTMB前の最後の坂道練で走り、UTMB100マイルを 32時間42分 211位で完走しました。
初の100マイルレースだった2017年のグランレイドレユニオン前にはアベレージ5:25/km 2時間47分がベストタイムで、38時間44分 226位で完走。
いずれも出走人数の10%以内でゴールできました。
こうした経験からも、100マイルレースという超ロングレースであっても、30㎞のロード練習が非常に効果が高いことが解ります。
なので、今のようになかなか山での練習が難しい現在、コロナ感染リスクの低い近所の坂道を探しながら、20㎞や30㎞のアップダウンコースを作ってみてください。 そして月に1~2回タイムアタックしてみてください。
タイムが上がっているという事は、確実に練習の効果が表れている証拠です。
こうしたロードでの練習は、5㎞10㎞のタイム計測なら、1時間以内、30㎞の坂道練習でも、4時間以内に終わることが出来ます。フルタイムワーカーであっても、帰宅後や週末、休日に十分可能な練習内容ですから、誰にでも可能です。
確かに地道で、山よりも楽しみは少ない練習ですが、コロナに感染せずに目指す100マイル完走へ近づいていくためには、大切な練習になります。
3蜜に気をつけて、そうならないコースを探していくことも、楽しみの一つと言えるでしょう。
まずはこの5㎞、10㎞のタイムトライアル、20~30㎞の坂道コース練習だけでもしっかりと行っておくだけでも、走力の基礎が出来てきます。
次回は、コンタミン31㎞からクールマイヨール78㎞間の、前半の難関セクション攻略を目指した練習を公開予定です。
フィールズオンアース
久保