正直、かなりショックでした。
しかしながら、緊急事態宣言も解除され、いよいよ山に走りに行くことが出来るようになり、世界中のランナーがまた走り始めています!
SNSにも山を走るランナーたちの投稿が復活してきています。
UTMF,UTMBともに2021年大会に向けて、よりじっくりしっかりトレーニングできるようになった、と前向きにとらえて安全にまたトレランを楽しんでいければと思います。
UTMBオフィシャルツアーは 2021年 8月24日~30日(UTMB,CCC), TDS 8月21日~27日、MCC 8月21日~24日で開催予定です!
今年の走れなかった分、倍楽しめるレースとなるように準備してほしいと願っています!
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2019UTMF 「グザビエと過ごした1週間」③いよいよスタートへ
【徹底した体のケア】
最後のコース試走を終えて、グザビエを貸別荘まで送り届けると、すぐにシャワーを浴びて体のケアを始める。
朝早く起床し、体に良い朝食を決まった時間に適量とり、
決まった時間に練習に出て、決まった量の練習をこなし
帰ったらすぐに体のケアをして、決まった時間に体に良い昼食をとる。
グザビエと毎日生活を共にして目の当たりにしたグザビエの日常だ。
何一つ特別なことや超人的なことをしているわけではない。
一つ一つは我々みんなが知っている「こうしたほうがいいよね」という事を限りなく100%に近く実施している。
これが簡単なようで実はとても難しいことなのだと思う。
私はいつも、今日は良いかと妥協して練習しなかったり、今日だけちょっと食べちゃおうとお菓子を食べたり、ストレッチや体のケアを今日だけ、と言ってやらなかったり、結局毎日何かを適当に誤魔化していることに気が付く。
グザビエはそういう無駄が一切ない。とにかく「良い」と言われていることを限りなくきちんとこなす。
一つ一つは何も特別なことはない、だけどそれを全てにおいてきちっとこなすことは実は簡単ではない
欧州で最近流行している、特殊な赤外線と低周波でリカバリーを促進する機器を使用しているグザビエ。
Compexという低周波治療機や最新の赤外線機器なども使い、さらにまるで宝物を磨くかのように、自分の足をアルニカオイルで入念にマッサージをする。実に丁寧にまるで足に話しかけるかのようにマッサージをしている。
【お昼は和食】
グザビエは日本食をたいそう気に入っていた。確かに欧米のレストランで出てくる食べ物と比較するとアスリート向けのヘルシーな料理は多い。
最後の練習後、UTMFの受付を済ませてそのままプレスカンファレンスに行かなくてはならないので、外食を依頼された。
脂っこくなく、野菜が豊富でヘルシーな食事、しかも今回は「大会前の景気づけに、ちょっといい感じの和食」というオーダーだった。
店検索が大変! 今日は「アシックス・ジャパン」からも会社の方々がいらしており、みんなで食事できる店を探す。
たしかにお蕎麦や居酒屋での和食は食べてきたが、いわゆる純和食はまだみんな食べていないそうで、ここまで結構節制した食事をした来たから、おいしい和食を食べさせてあげたいという、キャティさんとローランさんの提案だ。
前からチェックしていた、宿泊場所からすぐ近くの一軒家で営んでいる「割烹」のお店が1500円でランチをやっていると知り、メニューを確認したところとても良い感じだったので、そこを予約。拠点から歩いてすぐなので移動も楽だ。
「割烹 七草」というお店で純和食、割烹料理ランチ
ここでは、様々な小鉢のお惣菜とお吸い物、焼き魚と茄子の味噌田楽からお漬物迄、とても盛り付けも美しく「これで1500円?」と疑うほどの美味しそうな美しい和食ランチが並んだ。
グザビエもブノワも、女子選手のシルヴァンもとても喜び、バシバシ写真を撮っている。
和風のお座敷個室で目にも美しい和食を皆楽しんでくれた。
グザビエは初めて食べるものでも、なんでも挑戦した。
納豆も食べたし、もずく酢や佃煮もおいしいと言って食べた。
最後に「完璧なランチ!」
と言ってくれたのが嬉しかった。大事なレース前の食事なので、変なものは食べさせられないし、気がかりだったのでホッとした。
実際私も一緒に食べたのだが、ここ「割烹 七草」のランチは本当に素晴らしかった!
【UTMF受付へ】
ランチを終えたら、ほどなくして大池公園の受付へ向かう。
UTMFの必携装備チェックは他の海外の大会と比較しても、なかなか厳しい。
「携帯トイレ」などほかの大会ではめったに指定されない必携品もある。
宿を出る前にみんな間違いなく装備を持っているか再確認して出発する。何かを忘れていてまた取りに来るのは避けたい。
大池公園に到着し、必携装備チェック、受付のテントへ案内する。
世界のグザビエ到着と会って、ワーッと人が集まってしまうのではないかというのがちょっと心配だった。
が、意外と気が付く人も少なくそれほど大変なことにはならず、取り越し苦労。
でも中には気が付いて「写真撮ってください!」と声を掛けられる方には、親切に写真撮影に応じるグザビエ。
とてもリラックスしている様子。むしろ私の方が何かトラブルが起きないかを過剰に心配しているようだった。
受付テントで受付を始めるグザビエ
無事受付がスムーズに終了しますように!祈る思いで受付を案内する。
こういうところでのトラブルは決行ストレスとなる事を自分がランナーの時感じているので、それを願った。
必携装備チェックまでスムーズに進んだため、もう大丈夫だろうと思ったその時、
「何か足りないようなんだけど、、」
とグザビエから声を掛けられる。
急いで確認すると「プリントされたマップ」が不足していた!
グザビエに「マップを印刷したものは入ってない?」
と尋ねると小さな紙に、コースの全体図のマップは出てきたが、UTMFの求めるマップは等高線も記載された詳細なマップで、印刷すると複数枚になるものが必要である。
しかしグザビエは全体マップが一枚あればよいと思っていたらしく、女子選手のシルヴァン選手も同様だった。
【これではゼッケンがもらえない!】
慌ててスタッフの方にどこかで詳細マップが手に入らないか確認する。
「しまった、そこは盲点だった。」マップは持っていると確認したけれど、その内容までは確認しなかった。
ブースのショップで購入できるとの事だったので、ダッシュでマップを購入し、すぐに2人のもとへ渡しに行った。
何とか全ての装備が揃い、無事ゼッケンを入手。あとはスタートを待つのみ!
とおもったら、
「ちょっと待ってください!」
とスタッフの方から呼び止められる。
まだ何かミスがあったのか?? と焦る。
すると、「外来種の種子持ち込み予防のために靴のソールを洗ってください」
との事。
この手順は私も初めての経験。
でも確かに靴のソールの土の中に、日本に存在しない種子があり日本古来の植物や生物の生態系を脅かすリスクがある、というのは納得。
日本には存在しない細菌や病原菌の可能性だってゼロではない。
グザビエ自身も「靴底洗浄」の手順はトレイルレースとして初めての経験だったらしく
「え?靴底を洗うの?そんなに汚くないよ?」
と聞いてきたので、趣旨を説明したところ
「あ~なるほどね!確かにそれは大切だね、これは気がつかなかった」
と納得してくれて、シルヴァン選手と一緒にきれいに靴を洗い始めた。
お互いの靴のソールを洗いっこしたり、初めての「靴底洗浄」を楽しんでいるようだった。
綺麗に靴底を洗うグザビエとシルヴァン
【プレスカンファレンスへ】
何とか無事に受付を終えたらそのままプレスカンファレンス会場へ移動。
恐らくこのプレスカンファレンスでも最も注目される選手であるグザビエなので、時間に遅れないように早めに現地入り。
このプレスカンファレンスでは、一つ残念な告知をしなければならなかった。
「ブノワのDNS」
グランレイドレユニオンを2年連続で優勝し、特に昨年2018年は優勝候補筆頭だった世界最強ランナーのひとり、フランソワデンヌ選手に後半で追いついての23時間前半、同着優勝、ストックを使えない世界最難関レースの一つであるレユニオン2連覇のブノワはもしかすると本調子ならグザビエを超える力を持っていたかもしれない選手だった。
UTMFのサーフェスは火山島であるレユニオンのサーフェスとかなり似ている。グザビエが得意としている欧州アルプスのサーフェスとは異なる土のトレイルで、しかもストック無しの条件はレユニオンに酷似しているのである。
クロカンスキーヤーのグザビエはストックワークにたけており、トレイランナーの中でも屈指のストックテクニックを持つと言われている。
つまりストックを使えないUTMFはグザビエにとってはやや不利な条件が多い。
実は最も注目すべきは「ブノワとグザビエの対決」でもあったのだ。
しかしブノワは来日前の練習中にアキレスけんを故障し、ほとんどランが出来ない状態だった。来日後も回復に努めたが、どうにも間に合わなかった。
走るとすぐに痛みが出てしまい、全く戦える状態ではなかったのだ。
その為ブノワはコース試走にも一切参加出来ず、最後の望みをかけてバイクトレーニングのみ行っていた。
だがUTMFには間に合わなかった。
ブノワともグザビエ同様にずっと同じ屋根の下合宿生活をしてきたのだが、同じ自転車競技上がりのものとして、ブノワとはよく話をした。
折角日本まで来たのに、出走できないもどかしさは手に取るように感じられた。
そしてブノワはプレスカンファレンスの会場で、公式に「DNS」を自らの口で宣言した。
その無念さが痛いほど伝わってくる。
自分もブノワのレベルには程遠いが、同じランナーとして、招待を受けてチームが準備をしてきたレースにスタートできない辛さは言葉で表しきれない。それが良く解るだけに、かける言葉も見つからない。
「グザビエがきっと君の分も頑張ってくれる」
心の中でそういうのが精いっぱいだった。
UTMFでは、グザビエ以上に力を発揮したかもしれない「ブノワ・ジロンデル選手」(右)
ブノワの無念の発表の後、プレスカンファレンスの取りはやはりグザビエ選手だった。
今回の出場メンバーでグザビエ最大のライバルは間違いなくチームメイトのブノワだった。
でもそのブノワがいなくなった現在、グザビエの脅威となりそうな選手はそれほど多くは無かった。
グザビエ選手のインタビューが始まるころ、コーチのキャティさんに頼まれて、先に会場を後にして夕食の準備に拠点に帰ることになった。
予定より時間が押していたプレスカンファレンスの終了を待っていると、予定していた時間に夕飯が食べれないからだ。
レース前日の夕食は、非常に重要であり決められた時間に食べる必要があった。
寝る時間に近すぎると消化に影響し、足の筋力や体の休養するべき力が「消化」に費やされてしまうため、夕飯が遅くなることは最も避けたい事項なのだ。
その為裏方の我々はプレスカンファレンスを見学するよりも、夕飯の準備のために先に帰る必要があった。
先に拠点に帰り、夕飯の準備をする。
野菜のたくさん入ったお味噌汁と、おじや風ご飯。
レース前だからと言って特別メニューがあるわけではなく、ここまで食べてきた極めてヘルシーで脂肪分が少なく、グルテンフリーな夕食が用意された。
【夕食ミーティング】
プレスカンファレンスを終えたグザビエ達が帰ってきた。
すぐにグザビエが食卓に食器類を並べ始める。 レース前日でも何でも率先して準備する。
夕食を食べながら、コーチのローランさんから翌日レース当日のスケジュール、サポートの流れなどミーティングする。
レース戦略的な話が出るかと思ったが、主に内容は各エイドに用意する補給食に関することの内容が殆どだった。
しかし、そんななかグザビエが私に「この中で力がある選手はいる?」と聞いてきた。
世界の頂点にいる選手からアドバイスを求められるなんて、正直かなり嬉しかった。
間違いなく今回のUTMFの参加メンバーで最もグザビエの脅威となる可能性が高かった選手は、中国の「リャンジン選手」だった。
UTWTのVibram香港100や、多くのレースで活躍しており、アジアでは名が知れ渡った選手だ。
グザビエに「最も要注意選手はリャンジン選手だろう、香港のレースでフランソワデンヌ選手に劣らぬタイムでゴールしている、明日もきっとスタートから彼がリードしていくと思う」 と伝える。
「日本人選手ではだれが強い?」と聞いてきたので、UTMBで実績のあ「小原選手、土井選手がやはり筆頭だろう」と教える。
日本人選手には活躍してほしいが、今の私はとにかくグザビエがベストな結果を出してくれることが最重要任務。 出来る限り有効な情報を与える。
前回グザビエがUTMFに出場した2017年は土砂降り台風で42㎞に短縮されたため、試走していないコース前半は全く知らない。
なので、スタートのこどもの国から前半の難所である天子山地のコースについても入念に教えた。
そしてグザビエはその内容をとても熱心に聞いてくれた。
徐々にUTMFの勝利に向けて集中力が高まっているのを感じ取れた。
【サポートは2チームに分かれる】
夕食が終わると、グザビエ達は明日の装備などを準備。
そしてコーチのローランさんとキャティさん、メディアのスタッフたちとサポートのミーティングが始まった。
私はきっと女子選手のシルヴァン選手をサポートするのだろうと思っていた。
絶対必勝のグザビエはローランさんかキャティさんがサポートするのだろうと。
しかし、ローランさんからはこう告げられた。
「グザビエにはノブとキャティがついてくれ」
一瞬耳を疑った。
「え?自分がグザビエのサポート?」
嬉しい反面、半端ないプレッシャーを感じ始めた。
この時初めて、優勝候補筆頭の選手をサポートすることの重大さを実感することとなる。
トップ10に入れたらすごいよね!という選手をサポートすることと、出走メンバー中間違いなく一番実績を持ち、誰しもが優勝するだろう、と思われている世界のトップ選手のレースをサポートするということが、どれほどプレッシャーのかかる事なのか、初めて痛感する。
そんな自分の思いをよそに、本人のグザビエはいたってリラックスした様子で、鼻歌を歌いながら装備を準備している。
「まいったな、こりゃあ大変なことになったぞ」
いよいよ明日、スタートだ。
つつく・・・